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2019/02/15

わもんな言葉141ー響き

シェイクスピアの悲劇『リア王』は、ブリテンの王であるリアが、3人の娘に王国を分け与える提案をするところからはじまります。ただし、条件付きです。
――私はいま、権力、
領土、煩わしい政務という衣一切を脱ぎ捨てるつもりだが――
お前たちのうち、誰が一番父を愛していると言えるかな?
親を思う気持ちが最も深い者に
最も大きな贈り物を授けよう。
シェイクスピア『リア王』(松岡和子 訳)
長女ゴネリル、次女リーガンは、父リアへの愛を言葉を尽くして述べ、それぞれ王国の三分の一を譲り受けます。しかし、末娘のコーディリアは言葉を繕うことができず、リアの怒りを買い、勘当されてしまいます。それからリアの悲劇がはじまっていくわけですが、ここで注目したいのは、そのリアを諌めようとしたケントの言葉です。
矢をお放ちください。心臓を
射抜かれてもかまいません。リアが狂うなら
ケントも無作法になります。どういうおつもりだ、ご老体?
権力が追従に頭を下げているというのに
忠義が口を開くのを恐れるとお思いか?
王が愚行に走るとなれば、名誉を重んじる者の義務は
歯に衣着せぬもの言い。国を手放してはなりません。
とくとお考えのうえ、軽率きまわるこの処置を
撤回なさい。この命に賭けて、間違いありません、
末の姫君のあなたへの愛は、決して浅くはない。
静かな声が虚ろな響きを立てないのは、
お心が虚ろでない証拠です。
シェイクスピア『リア王』(松岡和子 訳)
科白の最後、「虚ろ」というのは「空っぽ、中身がない」というような意味です。「末の姫君(コーディリア)の声は静かな声だが、虚ろな響きではない。なので、心ないわけではない(むしろ、深い愛に満たされている)」と言います。

ここで重要なのは、ケントが(あるいは、シェイクスピアが)、声の「響き」を聞いているということ、そしてその「響き」が内面を表わしていると考えていた、ということです。日本語訳だからかもしれませんので、英語でもみてみましょう。
Nor are those empty-hearted whose low sound
Reverbs no hollowness.
Open Source Shakespeare "The Tragedy of King Lear"
reverb(リバーブ)という単語がみえます。「エコー」とか「残響、反響」という意味で、ここでは動詞として使われています。直訳すれば、「(コーディリアの)低い音は虚しさを響かせていない、空の心ではない」といったところでしょうか。

いずれにせよ、音声とともに、響きを感じているということです。